DX時代における技術の未来(第4 次産業分野)

 

論考/論文

要約

製造業でDXを実現した経験をもとに、「5G通信技術の普及によるDXの加速への期待」と「第4次産業分野の技術の未来」について本稿に纏めている。

1.はじめに

Digital Transformation (以下、 DX )とは、経済産業省「DX 推進指標」 (注1) より、「企業が Business 環境の激しい変化に対応し、 Dataと Digital 技術を活用して、顧客や社会の Needs を基に製品や Service 、 Business model を変革するとともに、業務そのものや組織、Process 、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されている。

本稿では、筆者のDX 実現経験、情報通信技術 5G 普及による DX 加速への期待、技術の未来について述べる。

2.筆者の DX 実現経験

筆者は、国内大手製造業会社のIT 部門で、約 2 年かけて製品 Life cycle 全般(研究開発、設計・開発、調達、生産、販売、保守Service)の DX を実現した。当該 DX の目的は、以下に述べる Business model 変革である。

・お客様への製品販売型Business から、製品販売後も付加価値を提供し続ける Business への変革

・保守Service 等で得たお客様意見を設計等上流工程へ高速に Feedback して、上流工程でお客様意見を組み込む Business への変革

これら変革に対応するため、「IoT/ICT/AI 等の Digital 技術を活用した顧客向け Business model 変革」と、「製品毎に存在していた調達・販売等の業務見直し(共通化)及びLegacySystem再構築」を実施した。さらに、事業部門が独自で Digital 技術を活用したService を speedy に開発できるように Digital 人材育成も図った。

2.1DX 全体構想策定(注2)

最初に、関係者間(経営層、事業部門、IT 部門)で体制を構築し、 DX 実施にあたっての共通理解の形成を図った。次に、関係者間で、 Business ・ IT-System の現状分析、あるべき姿作成、 GAP 分析等を実施した。そして、 DX 対象の IT-System 全体を、役割に応じて SoE ・ SoR ・ SoI Systems of Engagement ・ Systems of Record ・ Systems of Insight )の領域に分類 させ、同時進化のScenario 作成を実施した。合わせて DX Portfolio 管理を実施した。


①SoE ・ SoR ・ SoI の概要

・SoE :顧客との関係強化を目的とした Channel 系 System 群で、 Cloud computing 等を駆使している。迅速性多様性重視となる。

・SoR :企業内の Business 遂行を目的とした業務系 System 群で、 Legacy System の場合が多い。

・SoI :顧客 Insight (顧客欲求等)を理解することを目的とした情報系 System 群で、 AI 等を駆使している。


②SoE ・ SoR ・ SoI 同時進化の Scenario著者は以下に示すStep での Scenario を作成した。

Step1:共通 Data 基盤構築(統合 DB 環境構築)

Step2:共通 Data 基盤との連携環境構築、SoRの疎結合化

Step3:SoE ・ SoI への Digital 技術の取り込み

Step4:SoI と SoE ・ SoR との連携環境構築

Step5:SoR 再構築(老朽化対応)


2.2 Business model 変革

①お客様との接点機会追加(SoE、SoI進化):従来の数カ月毎の定期点検時等のお客様訪問から、毎月1回、IoT Data AI 等を活用した運転Report 配信、及び製品運転等改善提案によるお客様との接点機会追加を実現した。

また、お客様運用時意見の設計等へのFeedback による製品品質向上を実現した。

②予防保守(SoI進化):従来の定期点検による時間計画保全(TBM : Time Based Maintenance)から、製品稼働情報を基にした状態監視保全(CBM : Condition Based Maintenance )への変更による予防保守を実現した。

③在庫管理 System 化及び調達業務自動化(SoR 進化):手作業 紙 FAX 等による在庫管理 承認押印 部品調達から在庫管理 System化電子Workflow化部品調達自動化を実現した。

2.3 Micro Service Architecture 導入及び Digital 人材育成

主に、迅速性 多様性重視となる SoE ・ SoI には Micro Service Architecture 選定・導入を実施した。そして、事業部門への技術力移転及び Digital 人材育成を図った。

3.通信技術 5G 普及による DX 時代への期待

現在の通信技術は第4世代の4Gが主であるが、2020年3月に商用化がStartした最新世代の5Gへ徐々に移行が進んでいる。この5Gの特徴は「高速・大容量」、「超低遅延」、「同時多接続」である。 5G の特徴により、通信単価が低減し、 Data 通信価格も下がる。これにより従来ではSensingできない Data 等を収集できるようになる。このことはSensing機器等の IoT への需要が高まり、IoTは、大量生産による量産効果により価額低下が予想される。

結果、5G普及により、DXは、現状よりも経済面(Cost面)で優位となり、大きく加速することが期待される。

4.DX 時代における技術の未来(第 4 次産業分野)

第4次産業分野のうち、筆者が対応して きた製造業を事例に技術の未来を述べる。

経済産業省の「2020 年版ものづくり白書」(注3) によると、製造業が直面している経営課題に関する問いに対して、大企業・中小企業ともに約42 %が「人手不足」を挙げているほか、大企業の 17.1 %、中小企業の 22.7 %が「後継者不足」と回答している。そのため、今後の課題は、人間が担当する業務を絞り、その他は自動化を進めていくことである。現在でも DX 実現企業では「AI 画像認識技術と Robot 技術を活用した製品外観検査の自動化」等の事例(注4)がある。

短期的には、5G の高速・超低遅 延な無線通信という特徴を活かすことで、 DX 実現企業が導入している自動化技術をCloud computing へ移行していくことが予想される。結果、企業規模問わず、多くの製造業は Cloud computing Serviceにより自動化技術を利用することができる。また、Wearable Computer、XR 等の Digital 技術を活用することで、熟練技術者が、Remoteで、ものづくりの現場で起きていることを5感で感じ取り、把握できると予想される。結果、1人の熟練技術者が、 Remote で、複数の若手技術者へ作業指示ができる。

これらDX実現により、人手不足解消をしつつ、技術継承、製品品質維持・向上、作業効率化ができる。

中長期的(2030年以降)には、“ Ray Kurzweil 博士の未来年表”(注5)を参考すると、 Avatar Robot 普及や全ての場所で Robot が当たり前になることが予想される。ものづくりの現場では、 Robot が、次世代通信技術(6G等)と連携することで、高温・低温、高所で危険な場所等の人間が働きにくい環境でも24時間365日稼働していること予想される。

参考文献

執筆者

安川 雄樹 Yuki Yasukawa

Consulting IT 事業本部 Engagement Manager
技術士(情報工学)
経済産業省認定 IT Strategist

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