概要
DXがもたらす社会の変化
10年前と比較すると、我々の生活は、驚くほど一変している。思い返すと、10年前には、すでに社会 / 技術は成熟しており、10年間での大きな変化は想像だにしていなかった。Covid-19の蔓延により、リモートワークやオンラインでの会議 / 授業が当たり前となり、GAFAを筆頭にデジタルプラットフォーマーが台頭し、スマートフォン一つで何でも購入でき、それが自宅まで届く。
近い将来、ドローンでの自動配送や、自動車の自動運転、AIによる外国語への同時翻訳により誰でも世界中の人とLanguage Barrier無くコミュニケーションが出来る。これらのことが当たり前となる世界を、今、我々はリアルに想像出来る。まさに、10年前に思い描いていた、近未来の世界がすでに到来していると言っても過言ではない。
DXの実態と功罪
この変化をもたらしているもの、あるいはこれからもたらすものが、「DX」である。我々の生活様式や行動、価値観を大きく変化させ、新たな世界を創造しうるものである。直近の例では、Covid-19のワクチンも短期間での開発には、DXが大きく貢献している。DXは、世界を変え、よりよくすることが可能だ。
「DX」という言葉が初めて使われたのは、2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が発表した論文中であり、概念の生誕からわずか20年足らずでここまで社会を変容させたインパクトは大きく、DXの成否は社会や企業にとっての分水嶺といっても過言ではない。
しかし、我々の生活に大きなインパクト / 変化を与えている「DX」を目の当たりにする一方で、「DX」が実現出来ず、もがき苦しむ企業も多いのも事実である。「DX」は、現在、少数の勝ち組と多数の負け組に、大きく2分されているのが、実態だ。
このまま、両極化が進むと、「DX」の世界をよりよくする機能は阻害されていく、このことを我々、ビジョン・コンサルティングは懸念している。
少数の勝ち組は、則ち市場の寡占化を意味し、勝ち組が価格決定権を保有することになるためだ (図1)。
Amazonのように、カスタマージャーニー上のペインをデジタル技術で取り除き市場参入、と言うかたちは、DXの一つの典型例であるが、これが市場を寡占化し競合がいなくなった場合、彼らが安価なコストでサービスを提供する理由は無くなる。更には、不採算事業 / サービスは切り捨てられ、過疎地域や離島などの生活は、DX以前より不便になる可能性すらある。一部の勝ち組だけではなく、社会 / 市場全体でDXを推進 / 実現していく必要がある、と我々が考える所以だ。
では、何故DXは斯様に難しいのか。
「デジタル」による「変革」=DX
そもそも、DXの定義が難しい。
IPA (情報処理推進機構)では2021年のDX白書において、DXを、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と、定義している。
端的に言えば、「デジタル」で「変革」することと、言える。
なんのためにDXをするのか、DXで何をするのかという議論がよくあるが、そもそも、DXには、デジタルという「手段」と、変革という「目的」の、両方が内包された言葉なのである。
手段であるデジタルにも、目的である変革にも、無数に選択肢 / 方向性が存在する。
従い、「DX」がうまく行っていないと一言でいっても、変革の方向性 (ビジネスモデルや事業範囲 / ターゲットなど) / 実行推進力、デジタル技術の技術力 / 使用技術の選択 / 活用方法、と考えられる要因の所在は、無数に可能性がある。
実際、我々がご支援に入ると、DXが何故うまく行っていないのか、原因を明確に出来てないケースが多いと感じる。原因がわからなければ、対応ができないのは自明だが、無数の組み合わせから正解を選ぶのは、非常に困難である。また、DXのような「新しい価値」「新規事業」を実現するにおいて、唯一の正解は存在しない。
ここに、DX負け組の再起の道の険しさがある。
DXによる、ポジションチェンジ
では、DXの本質とは何か。
我々は、多くの事例の研究や、企業のご支援を通じ、目的×手段の結果として、何を成し遂げたか / 成し遂げようとしているか、にあると考えている。DX白書における「ビジネスモデルの変革」であり、「変革による競争優位性の確立」、に当たる部分である。
よく、手段のレベルで、デジタル化 / デジタライゼーションとの分類を定義しているケースもあるが、これは事の本質を表していないだろう。DXかどうかは、「変革」や「競争優位性の確立」を実現出来ているかで判断すべきである。デジタル化の典型例で挙げられるペーパーレスでも、それで圧倒的な競争力の実現 / 人々の価値観や行動様式が変わるのであれば、それはDXだ(図2中 (3))。
「変革」や「競争優位性の確立」とは、事業において、「ポジションチェンジ」が出来ているかと言い換えることが出来る。経営戦略において、「ポジション」とは多様な意味を持つ(図3)。
バリューチェーン上流に位置する企業が、DXによりダイレクトな顧客接点をもち、下流へ進出する、などはその典型例だろう。中でも、バリューチェーンのピラミッド構造において、サプライヤーなどの下請け企業が、上位に位置するインテグレーターとのポジション逆転などは、大きなインパクトをもつポジションチェンジの事例である(図4)。
これまで長年にわたり保持されてきた階層構造を、DXにより逆転出来ることが証明され、DXは、ビジネスに大きな可能性をもたらしたといえる。一方で、ポジションチェンジは、既存プロセスの延長では対応出来ないケースが多い。
DXにおける戦略×実行の重要性
一部のスタートアップやデジタルネイチャー企業の成功事例は華々しく鮮烈だ。「ビジネスモデル」や「ターゲット」の着眼点の鋭さがフォーカスされ、一見するとこれが成功要因のように見える。一方で、これらの事例を参考に鋭いビジネスモデルの構築やそのPoCに膨大な時間を費やすも、事業化がうまく行かない、という事例は枚挙にいとまがない、大多数の企業において、DXは、ユニークなビジネスモデルだけでは実現しえない、ということを見落とした結果である。
ビジネスモデルの構築が、DXの実現に重要な要素であることは疑いようのない事実ではあるが、しかし、最も実現に負荷がかかるのは、その実装 / 実行部である。既存ビジネスを保有している一般の企業にとっては、こういったビジネスモデルの変革やDXの推進には、必ず痛みを伴う。散逸したデータやレガシーなスパゲッティシステムを補完してきた複雑な業務プロセスなどを、現場に入り込み、泥臭く可視化し、DXの実現に向けた道筋を整地していく作業が必要不可欠なのである。
加えて、DXを進めていけば、大抵のケースにおいて、組織・人材の再編 / 行動規範などの会社の屋台骨までをも変えていく「再生」の作業が必要となる。これは、社内のキーマンが経営層と一体になり、文字通り命がけで取り組まないと実現できない、「よそ者」では実行が困難な領域である。
しかし、実際には外部から招聘された人材や企業が、一部の先進的な成功事例を参考に、きれいなDXの将来像を描くも、実現性や実行に当たっての巨大な歪が発生し、道半ばで頓挫してしまうケースが少なくない。
あるいは、逆にDXのためのデジタルツールの導入だったものが、実行フェーズになると、目的と手段が逆転し、ツールの導入そのものが目的となってしまい、いつまでのDXが進展しない事例も多い。
耳障りのよいバズワードやビジョンを並べられるも、実行領域の理解が浅く、非現実的な計画を、苦々しい想いで目にしたことが一度はあるのではないだろうか。「よそ者」が、上手くいかない理由を「マインドセット」や「企業文化」という一言で説明使用としていたら、黄色信号だ。逆に、DXが基幹システムの導入における予算取り / リソース確保のための方便となってしまっている、そんな状況に見に覚えはないだろうか。現状の業務プロセスを変更したくない / パッケージのアドオン開発を最小限にしたいという議論に終始し、どう有りたいか / 何を目指すかの検討が抜け落ちている現場があったら、危ない。
どれだけ示唆深く緻密に戦略が練られていても、「実現に向けた泥臭い実行」の視点が抜けているDXや、戦略と実行に一貫した血が通っていないDXは、中々芽が出ない。
したがって、「戦略から実行」までを、しっかり一本筋を通し、かつ戦略と実行を一定程度同時に解くこと、これがカギとなる。
DXにおけるアジャイル開発の重要性
しかし、これには非常に時間がかかる事も事実である。PoCを繰り返すも、その先に進まないというケースも散見される。
「戦略×実行」に、どんな仮説を持って、何をどうやって検証するためのPoCなのか、この視点を欠いたPoCが多い。また、すべての検証が完了する頃には、VUCA環境下において、市場や技術の進化 / トレンドは、当初の想定と大きく異なっている可能性が高い。
しかし、膨大な泥臭い改革実行を、市場 / 技術が変化する前に、一気通貫に完遂することは、現実的ではない。では、どうすればよいか。この課題をクリアするために重要なのが、「アジャイル開発」である。
しかし現実には正しいアジャイル開発をDX推進に適用出来ているケースは、非常に少ない。
正しい「アジャイル開発」は、DX推進にあたって「実行部」をどれだけ重視出来ているか、ということと密接に関係している。図5(左) を参照願いたい。正しいDXは、進むべき方向 / 距離(現状とのGap)に対し、方向性が近いPoCで徐々に距離を詰めていく(➊~➎)、派生する周辺の角度のズレ(⊿θ)の大きいPoCは(①~⑤)は、方向性の一致したPoCが実行された距離と同等程度のものを順次実施していく、という手順で進められる。この➊→➎ / ➊→①~⑤の手順が、正しいアジャイル開発の手順となる。
このためには、正しく方向性と距離を見極める必要がある。ここが、まさに泥臭い地道な業務 / データ分析・整理が必要な部分だ。きれいな戦略やビジネスモデルを描くだけでは、この見極めは出来ない。
この距離(ℓ)と、方向性のずれ(r)、この積の総和(Σ(ℓ×r))が大きいほど、難易度のモーメントは増大し、組織は振り回され、疲弊する。
正しくないアジャイル開発 (図5(右)) は、まさにその典型例となる。何も定まっていないのにできるところから、とりあえずデジタル化を実行したり、全体像が見えない状況で、重点ポイントだけを先行してデジタル化を推進することで、進むべき方向性×距離 (G)があいまいで、且つそれぞれのPoCの難易度の見積もりも出来ていないため、(Σℓ×r) が増大する。結果、組織が疲弊していくばかりではなく、肝心のGすらも過大なモーメントに振られ、朝令暮改を繰り返すことになる。DX失敗の典型例だ。
ToBe像に向けた「フットプリント」、これがDXの成否を握ると言っても過言ではない。
ビジョン・コンサルティングのミッション
「絵に書いた餅」と言われる将来像や誤ったアジャイル開発によって、失敗が死屍累々と積み重なり、今この瞬間も、DX負け組企業が量産されている。これでは、社会は良くならない。
我々は、社会に新たな価値を提供し、よりよい世界を創造していきたい、と本気で考えるコンサルティング・ファームだ。この状況を打破するため、「戦略~実行までの一気通貫の伴走型支援」、「アジャイル開発」を磨き込んできた。「戦略×実行」「アジャイル開発」を携え、DXを少数の成功者から大多数の企業に開放し、より良い世界を創造していく、これが、我々ビジョン・コンサルティングのミッションである。