プロジェクトを前進させる推進力─経営層のコミットメントの秘訣

レポート

推進力を生む経営層コミットメントの力

プロジェクトの成功には、現場の努力はもちろんのこと、経営層からの強力なバックアップ、すなわち「コミットメント」が不可欠です。

経営層のコミットメントとは、単にプロジェクトを承認するだけでなく、その戦略的重要性を理解し、必要なリソース(ヒト・モノ・カネ)を提供し、部門間の調整や意思決定を支援し、プロジェクトの障害を取り除くための積極的な関与を意味します。

しかし、「経営層がプロジェクトの重要性を理解してくれない」「リソースが十分に割り当てられない」「部門間の対立が解決されず、プロジェクトが進まない」「重要な意思決定が遅れる」といった問題は、多くの組織で見られる課題であり、その根底には経営層のコミットメント不足が存在します。

経営層の関与が薄いプロジェクトは、推進力を失い、様々な困難に直面し、最終的に失敗に終わるリスクが高まります。

本記事では、経営層のコミットメント不足がプロジェクトにどのような悪影響を及ぼすのか、その原因とメカニズムを分析し、Vision Consultingが提唱する、経営層のコミットメントを引き出し、プロジェクト成功のための強力な推進力に変えるためのアプローチについて解説します。

なぜ経営層はプロジェクトにコミットしないのか?

経営層がプロジェクトに対して十分なコミットメントを示さない背景には、様々な要因が考えられます。

・プロジェクトの戦略的重要性への理解不足: プロジェクトが組織全体の戦略目標達成にどのように貢献するのか、その価値やインパクトを経営層が十分に理解・認識していません。

・短期的な視点、成果への偏重: 経営層が短期的な業績や目の前の課題に追われ、中長期的な視点が必要なプロジェクトへの関心が薄くなっています。

・コミュニケーション不足: プロジェクトマネージャーや担当役員から、プロジェクトの状況、課題、必要な支援などに関する情報が、経営層に対して効果的に伝えられていません。

・多忙、関与時間の不足: 経営層が多くの責務を抱え、個別のプロジェクトに十分な時間と注意を割くことが物理的に難しい状況にあります。

・プロジェクトマネジメントへの理解不足: 経営層自身がプロジェクトマネジメントのプロセスや、スポンサーとしての役割を十分に理解していません。

・リスク回避的な姿勢: プロジェクトに伴うリスクや不確実性を過度に恐れ、積極的な意思決定や支援をためらっています。

・担当役員(スポンサー)の不在、力不足: プロジェクトを推進する責任を持つ担当役員(スポンサー)が明確でない、またはスポンサーが経営層内で十分な影響力を持っていません。

・組織内の政治的対立: 経営層内や部門間の政治的な対立が、特定のプロジェクトへの支援を妨げています。

・過去の失敗経験: 過去のプロジェクト失敗経験から、新たなプロジェクトに対して懐疑的・消極的になっています。

・「現場に任せている」という意識: プロジェクトの実行は現場マターであると考え、経営層としての関与の必要性を感じていません。

 

なぜ経営層はプロジェクトにコミットしないのか?

コミットメント不足が引き起こすプロジェクトの失速

経営層のコミットメント不足は、プロジェクトの様々な側面に深刻な悪影響を及ぼし、プロジェクトを失速させる原因となります。

・リソース不足(ヒト・モノ・カネ): 必要な人員、予算、設備などが十分に割り当てられず、プロジェクトの計画通りの実行が困難になります。

・意思決定の遅延、停滞: プロジェクトの重要な局面(方針転換、追加投資、課題解決など)で経営層の承認や判断が必要な際に、意思決定が遅れたり、先送りされたりして、プロジェクトが停滞します。

・部門間の壁、調整の難航: 関係部署間の利害対立や協力不足が発生した場合に、経営層によるトップダウンでの調整や指示が行われず、問題が解決しません。

・戦略との不整合: プロジェクトの目的や方向性が、組織全体の戦略とずれていたり、途中で戦略が変わったりしても、適切な軌道修正が行われません。

・プロジェクトチームの士気低下: 経営層からの関心や支援が感じられず、プロジェクトの重要性が認識されていないと感じることで、チームメンバーのモチベーションが低下します。

・優先順位の不明確化: 組織内で複数のプロジェクトが乱立する中で、当該プロジェクトの優先順位が低く位置づけられ、リソースや注目度が低下します。

・変更への対応力低下: 市場環境の変化などにより、プロジェクトの方向転換が必要になった際に、経営層の迅速な判断と支援が得られず、機動的な対応ができません。

・プロジェクト中止リスクの増大: 上記のような問題が複合的に発生し、プロジェクトの継続が困難と判断され、中止に至るリスクが高まります。

 

Vision Consulting流「経営層エンゲージメント」戦略

Vision Consultingは、経営層をプロジェクトの強力な推進力に変えるために、以下の「経営層エンゲージメント」戦略を推奨します。

1. プロジェクトの戦略的位置づけの明確化: プロジェクトが組織の経営戦略や目標達成にどのように貢献するのか、その価値とインパクト(ROI、競争優位性など)を定量的・定性的に明確にし、経営層に分かりやすく提示します。

2. 強力なプロジェクトスポンサーの任命: プロジェクトに対して責任を持ち、経営層内で影響力を行使できる適切な役員をプロジェクトスポンサーとして任命します。スポンサーの役割と責任を明確に定義します。

3. 効果的なコミュニケーションチャネルの確立: 経営層(特にスポンサー)に対して、プロジェクトの進捗、課題、リスク、必要な意思決定事項などを、定期的かつ簡潔に報告・相談する仕組み(ステアリングコミッティなど)を確立します。

4. 「エレベーターピッチ」の準備: プロジェクトの概要、目的、価値、現状などを短時間で説明できる準備をしておき、経営層との短い接触時間でも効果的に情報を伝えられるようにします。

5. 課題、リスクの早期かつ透明性のある報告: プロジェクトが直面している課題やリスクを隠さずに早期に報告し、経営層に対応の必要性を認識させ、支援を要請します。

6. 意思決定オプションの提示: 経営層に意思決定を求める際には、単に問題を提示するだけでなく、複数の選択肢とそのメリット・デメリット、推奨案などを具体的に提示し、判断を仰ぎます。

7. 経営層の関与を促す仕組み: プロジェクトの重要なマイルストーン達成報告会、デモンストレーション、現場視察などに経営層の参加を促し、プロジェクトへの関心を高め、当事者意識を醸成します。

8. 成功体験の共有: プロジェクトの小さな成功(Quick Win)やポジティブな成果を積極的に経営層に報告し、プロジェクトへの期待感と信頼感を高めます。

9. プロジェクトガバナンス体制の強化: プロジェクトの意思決定プロセス、役割と責任、報告体制などを明確にしたガバナンス体制を構築し、経営層の関与を formal に位置づけます。

10. 信頼関係の構築: プロジェクトマネージャーやスポンサーが、日頃から経営層との間でオープンで誠実なコミュニケーションを心がけ、信頼関係を構築します。

 
コミットメント不足が引き起こすプロジェクトの失速

事例紹介/筆者経験

ある企業の全社的な業務改革プロジェクトにおいて、当初、経営層の関与が薄く、各部門からの抵抗もあってプロジェクトが難航していました。

Vision Consultingは、まずプロジェクトの目的と期待効果を経営戦略と結びつけ、経営会議で改めて説明し、その重要性について再認識を促しました。

そして、社長をトップとするステアリングコミッティを設置し、月次での進捗報告と重要課題の議論・意思決定を行う場を設けました。

また、各部門の役員を巻き込み、部門間の調整役としての責任を明確にしました。

さらに、プロジェクトの成果を可視化するダッシュボードを導入し、経営層がいつでも状況を把握できるようにしました。

これにより、経営層の当事者意識が高まり、部門間の協力体制も強化され、プロジェクトは力強く推進されるようになりました。

経営層の「本気度」が組織全体に伝播し、プロジェクトの空気を変えた事例です。

変化の時代のリーダーシップとプロジェクト成功

VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と呼ばれる現代において、経営層には、変化を恐れず、不確実な状況下でも迅速かつ的確な意思決定を行い、組織を導くリーダーシップが求められています。

プロジェクトは、まさにこの変化と不確実性の最前線であり、経営層のコミットメントは、単なる支援に留まらず、プロジェクトを通じて組織変革を推進し、未来を切り拓くための原動力となります。

今後は、経営層がより積極的にプロジェクトに関与し、現場と一体となって課題解決に取り組む、よりフラットでアジャイルな組織運営とプロジェクト推進が求められるようになるでしょう。

検討手順

経営層のコミットメントを引き出すための具体的なステップは以下の通りです。

1. プロジェクト価値の明確化: プロジェクトが経営戦略にどう貢献するか、定量・定性的な効果を整理します。

2. スポンサーの特定と役割定義: 最適なプロジェクトスポンサーを特定し、その役割と責任について合意します。

3. コミュニケーション計画の策定: 経営層への報告内容、頻度、方法などを計画します。

4. ステアリングコミッティの設置、運営: 構成メンバー、開催頻度、アジェンダなどを定め、効果的に運営します。

5. 報告資料の準備: 経営層向けに、簡潔で分かりやすい報告資料(サマリー、主要KPI、課題、意思決定依頼事項など)を作成します。

6. 事前根回し: 重要な意思決定事項については、事前にスポンサーや関係役員に相談し、理解を得ておきます。

7. 課題、リスクのエスカレーションルール: どのような課題・リスクを、どのタイミングで経営層にエスカレーションするかルールを定めます。

8. 関与機会の設定: 経営層がプロジェクトに関与する機会(レビュー会議、デモなど)を計画的に設定します。

9. フィードバックの収集: 経営層からのフィードバックを求め、プロジェクト運営に反映させます。

10. 関係構築の継続: 定期的なコミュニケーションを通じて、信頼関係を維持・強化します。

 
「経営層エンゲージメント」戦略

おわりに

経営層のコミットメント不足は、プロジェクトの成功を阻む見えにくい、しかし非常に大きな壁です。

この壁を打ち破るためには、プロジェクトの戦略的重要性を粘り強く伝え、効果的なコミュニケーションを通じて経営層を巻き込み、強力なスポンサーシップを確立することが不可欠です。

Vision Consultingは、プロジェクト価値の可視化から、ステアリングコミッティの設計・運営支援、経営層向けコミュニケーション戦略の策定まで、貴社のプロジェクトが経営層の強力な支援を得て成功するための具体的な施策をご提案します。

「経営層の理解が得られない」「リソースが足りない」「意思決定が進まない」といった課題に直面しているのであれば、ぜひVision Consultingにご相談ください。

経営層をプロジェクトの最大の味方につけ、成功への道を切り拓きましょう。

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補足情報

関連サービス:プロジェクトスポンサーシップ強化支援、ステアリングコミッティ運営支援、プロジェクトガバナンス構築支援、経営層向けコミュニケーション戦略、PMO支援

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