見落とされたリスクが命取りになる ― 想定力の差が命運を分ける

レポート

問題は“前兆”を見逃したときに起こる

「計画通りに進んでいたはずなのに、突然大きな問題が発生しました」「予期せぬ外部環境の変化に対応できず、プロジェクトが頓挫しました」「事前にリスクを認識していたが、具体的な対策を講じていませんでした」… プロジェクトにおいて、「想定外」はつきものです。

しかし、その「想定外」を事前に予測し、備える活動こそがリスク管理です。リスク管理の不備は、プロジェクトの遅延、コスト超過、品質低下、そして最悪の場合、プロジェクトの失敗に直結します。

本記事では、プロジェクトにおいてリスク管理がなぜ重要なのか、そしてリスク管理が不十分な場合にどのような問題が発生するのかを解説します。
さらに、Vision Consultingが提唱する、リスクの特定、分析、評価、対応計画策定、そしてモニタリング&コントロールまでを網羅した、実践的なリスク管理プロセスを紹介します。

なぜリスクは見過ごされ、備えは不足するのでしょうか?

プロジェクトでリスク管理が十分に機能しない背景には、いくつかの共通した原因が存在します。

・リスク管理の重要性に対する認識不足: プロジェクト関係者が、リスク管理を「手間のかかる余計な作業」と捉え、その重要性を十分に理解していません。

・リスク特定活動の形式化: リスクの洗い出しが、過去の経験やテンプレートに頼るだけで、今回のプロジェクト特有のリスクを見逃してしまいます。

・「正常性バイアス」: 「自分たちのプロジェクトは大丈夫だろう」という楽観的な思い込みにより、潜在的なリスクを過小評価してしまいます。

・リスク分析、評価の曖昧さ: 特定されたリスクの発生可能性や影響度を客観的に分析・評価する手法や基準が確立されておらず、感覚的な判断に頼ってしまいます。

・リスク対応計画の具体性欠如: リスクに対する対応策(回避、軽減、転嫁、受容)が具体的に計画されておらず、「何かあったら考える」という姿勢になってしまいます。

・リスク担当者の不在、不明確さ: 各リスクに対する監視や対応策実行の責任者が明確ではありません。

・リスク情報の共有不足: 特定されたリスクや対応計画が関係者間で十分に共有されず、いざという時に連携が取れません。

・リスク管理プロセスの形骸化: リスク管理計画は存在するものの、定期的な見直しや更新が行われず、実態と乖離してしまいます。

・ポジティブリスク(機会)への着目不足: リスク管理がネガティブな事象への対応に偏り、プロジェクトに好影響を与える可能性のある「機会」としてのリスクを見逃してしまいます。

・過去の失敗経験からの学習不足: 過去のプロジェクトで発生した問題やその原因分析結果が、次のプロジェクトのリスク管理に活かされていません。

 

リスク管理不備がもたらすプロジェクトの脆弱性

リスク管理が不十分なプロジェクトは、様々な脅威に対して脆弱な状態にあります。

・予期せぬ問題の多発: 事前に特定・評価されていなかったリスクが顕在化し、次々と問題が発生します。

・対応の遅れと被害拡大: リスク発生時の対応計画が準備されていないため、初動が遅れ、問題の影響が拡大します。

・手戻り作業の増加: リスクの結果として発生した問題に対処するため、計画外の手戻り作業が発生し、生産性が低下します。

・大幅なスケジュール遅延: 問題対応に時間を取られ、プロジェクト全体のスケジュールが大幅に遅延します。

・予算超過: 緊急対応、追加リソースの投入、リカバリー策の実施などにより、予期せぬコストが発生し、予算を圧迫します。

・品質の低下: スケジュールやコストのプレッシャーから、品質基準が守られなかったり、十分なテストが行われなかったりします。

・ステークホルダーの信頼失墜: 問題の発生や対応の遅れにより、顧客や経営層からの信頼を失います。

・チームの混乱と疲弊: 次々と発生する問題への対応に追われ、チームメンバーは混乱し、疲弊してしまいます。

・プロジェクト目標の未達、失敗: 上記のような問題が複合的に発生し、プロジェクト本来の目標を達成できず、失敗に終わります。

Vision Consulting流「先を読む」リスクマネジメント

Vision Consultingは、潜在的な脅威に先手を打ち、プロジェクトを成功に導くための体系的なリスクマネジメントプロセスを導入・定着させます。

1. リスク管理計画の策定: プロジェクトの特性に合わせて、リスク管理の方針、体制、プロセス、使用するツール、報告ルールなどを明確に定義します。

2. 網羅的なリスク特定: ブレーンストーミング、専門家へのヒアリング、チェックリスト、過去事例の分析など、多様な手法を用いて、プロジェクトに潜むあらゆるリスク(技術、リソース、スケジュール、コスト、外部環境、組織など)を網羅的に洗い出します。

3. 定性的、定量的リスク分析: 洗い出されたリスクに対し、発生可能性(Probability)と影響度(Impact)を評価します。必要に応じて、期待金額価値(EMV)分析などの定量的な分析も行い、リスクの大きさを客観的に把握します。

4. リスク優先順位付け: 分析結果に基づき、対応すべきリスクの優先順位を決定します(例:P-Iマトリクス)。

5. リスク対応戦略の策定: 高優先度のリスクに対し、適切な対応戦略(回避、軽減、転嫁、受容)を選択し、具体的な対応計画を策定します。

6. リスク責任者のアサイン: 各リスクに対して、監視・対応の責任者を明確にアサインし、当事者意識を醸成します。

7. リスクレジスター(リスク台帳)の構築、運用: 特定されたリスク情報を一元管理し、関係者間で共有・更新できる仕組みを構築します。

8. リスクトリガー(発生兆候)の設定: リスクが顕在化する前の兆候や指標を定義し、早期発見・早期対応が可能な体制を構築します。

9. 継続的なリスクモニタリング: 定期的なリスクレビュー会議を開催し、リスクの状況変化をモニタリングし、新たなリスクの発見と既存リスクの再評価を行います。

10. 機会(ポジティブリスク)の活用: ネガティブなリスクだけでなく、プロジェクトに好影響をもたらす可能性のある機会についても特定・評価し、積極的に活用する戦略を策定します。

11. リスク対応の実行と効果測定: 策定した対応計画を確実に実行し、その効果を測定・評価します。

12. 教訓の抽出と次回への活用: プロジェクト終了時にリスク管理の振り返りを行い、成功・失敗の要因を分析し、次のプロジェクトに活かす教訓として蓄積します。

事例紹介/筆者経験

ある金融機関のシステム更改プロジェクトでは、当初、技術的なリスクにのみ焦点が当てられていましたが、Vision Consultingが支援に入り、包括的なリスク分析を実施しました。

その結果、技術リスクよりも「業務移行期間中のオペレーション継続」「新旧システム並行稼働時の運用負荷」「外部ベンダーとの調整」などの運用・組織面のリスクの方が重大であることが判明しました。

これを受けて、詳細な移行計画の作成、運用スタッフへの事前トレーニング、外部ベンダーとの綿密な調整スケジュール策定、そして万が一の際のロールバック計画まで準備しました。

実際の移行時には、一部のベンダー連携で想定していた問題が発生しましたが、事前に準備していた対応策により、大きな混乱を避けることができました。「備えあれば憂いなし」を実践したプロジェクトでした。

プロアクティブなリスクマネジメント文化の醸成

優れたリスクマネジメントは、単なるプロセスや手法の問題ではなく、組織全体の文化と深く関わります。「問題が起きてから対応する」というリアクティブな姿勢から、「問題を予防し、機会を活用する」というプロアクティブな姿勢への転換が重要です。

この文化醸成により、リスクマネジメントがプロジェクトの「お荷物」ではなく、「成功のエンジン」として機能するようになります。

検討手順

自社のプロジェクトにおけるリスク管理を強化するための具体的なステップは以下の通りです。

1. 現状のリスク管理実態調査: 現在のリスク管理のやり方、課題、過去の問題発生状況を詳細に分析します。

2. リスク管理方針、戦略の策定: 組織のリスク許容度、管理方針、責任体制を明確に定義します。

3. リスク管理プロセスの設計: リスク特定から対応まで一連のプロセスを体系化し、手順書として整備します。

4. リスク分析、評価手法の確立: 発生可能性と影響度の評価基準、分析手法を標準化します。

5. リスクレジスター(台帳)システムの構築: リスク情報を一元管理するためのツール・システムを導入します。

6. リスク管理体制の構築: リスク管理責任者、リスクオーナーの役割分担を明確化します。

7. リスク管理教育とトレーニング: プロジェクトメンバーに対するリスク管理スキル向上のための教育を実施します。

8. パイロットプロジェクトでの試行: 小規模なプロジェクトで新しいリスク管理プロセスを試行し、改善点を洗い出します。

9. 組織標準としての定着: 効果的なプロセスを組織の標準として正式に採用し、全プロジェクトに展開します。

10. 継続的改善とモニタリング: リスク管理の効果を定期的に評価し、プロセスの継続的改善を図ります。

 

おわりに

プロジェクトにおけるリスク管理は、「何か問題が起きるかもしれない」という不安に備えるためだけの活動ではありません。潜在的な脅威を事前に特定し、適切に対処することで、プロジェクトの成功確率を高め、安定した成果を実現するための戦略的な活動です。

Vision Consultingは、リスク管理プロセスの構築から、組織のリスクマネジメント文化醸成まで、包括的にサポートします。

「突発的な問題に振り回されがちだ」「リスク管理が形式的になっている」「予期せぬ問題で頻繁にプロジェクトが困窮する」という課題をお持ちの場合は、ぜひVision Consultingにご相談ください。

共に、先を読み、備えることで、確実にプロジェクトを成功に導くリスクマネジメント体制を構築しましょう。

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補足情報

関連サービス:プロジェクトマネジメント、リスクアセスメント、クライシスマネジメント、PMO構築・運営支援、BCP策定支援

キーワード:リスク管理、リスクアセスメント、リスクレジスター、危機管理、予防、プロジェクトマネジメント、不確実性、機会管理

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