社内RAGは、規程やマニュアルから必要な文章を探し、その内容をもとに質問へ答える仕組みです。精度を上げるには、正解と根拠をそろえ、文書の読み取り・検索・AIへの入力・回答を分けて確かめます。
こんなときに役立ちます
社内の規程やマニュアルについて質問できるAIを導入済み、または試験中で、次のような悩みがある方に向けた記事です。
まず、確認する質問を一つ選ぶ
この記事では、架空の経費規程を例に、社内RAGの誤答の原因と直し方を図解します。まず、間違った答えが返った質問か、規程から正解を確かめられる質問を一つ選びます。
たとえば、規程では予約前に承認が必要なのに、AIが「後で申請できます」と答えた場合です。この答えを信じて予約すると、必要な承認を受けないまま手続きを進めてしまいます。
以下の規程・金額・質問・回答は、確認の手順を示すための架空例です。宿泊費の上限は、2026年9月30日までの宿泊が10,000円、10月1日以降は12,000円。金額は1人1泊・税込です。現行版では、上限を超える宿の予約前に承認を受けます。
- 検索 必要な規程を探す 宿泊日に合う規程を選びます。
- AIへの入力 金額と条件を渡す 上限12,000円と、上限を超える予約には事前承認が必要という条件を渡します。
- 回答 予約前の承認を案内する 「13,000円の宿は、承認を受けてから予約します」と答えます。
業務側は正解と根拠の規程を示します。システム担当者には、検索結果と、回答を作るAIが実際に受け取った文章を調べてもらいます。この文章を、ここでは「AIへの入力」と呼びます。
「この質問への答えが、規程の条件と違います。検索結果・AIへの入力・最終回答を比べ、条件がどこで抜けたり変わったりしたかを調べてください」。質問文・誤答・根拠の規程を添えます。
文書を増やす前に、一つの質問で原因を調べると、直す場所を絞れます。同じ質問と根拠を使い、回答の正しさと閲覧権限を分けて確かめます。
AIに使わせる規程と、読める人を決める
規程の管理担当者と、どの文書を根拠にするか、いつの宿泊に使うか、誰が読めるかを決めます。現在と過去の問い合わせ、一般社員向けの規程と閲覧者を限る規程を分けて整理します。
文書の保管場所・管理担当・版・適用期間・読める人をまとめた一覧が「文書台帳」です。正式な根拠として管理する文書を「正本」と呼びます。ファイルの更新日時ではなく、台帳と規程の内容で使う文書を選びます。
同じ10月2日に精算する場合の上限(架空例・1人1泊・税込)
文書台帳:4種類の使い分け
| 文書 | 使う条件・保管場所・管理担当 |
|---|---|
| 以前の規程|EXP-01/v1 | 過去の宿泊に残す。9月30日までの宿泊は上限10,000円です。保管:規程管理庫の旧版。管理:経理規程担当。 |
| 現在の正本|EXP-01/v2 | 現在の宿泊の根拠。10月1日以降は上限12,000円。超過時は予約前承認が必要です。一般社員が参照する正本です。保管:規程管理庫の正本。管理:経理規程担当。 |
| 部署内のコピー|EXP-01-copy | 回答の根拠から外す。v2と同じ内容でも、管理庫の正本を使います。コピーから取り込んだ文章も検索に残らないか確認します。保管:部署共有フォルダー。管理:経理規程担当。 |
| 閲覧制限の追加規程|FIN-EX | 許可された経理担当者のみ。役員向けの個別条件です。一般社員の検索結果やAIへの入力には含めません。保管:権限付き管理庫。管理:経理権限管理担当。 |
過去の問い合わせには旧版が必要な場合があります。一方、部署内のコピーは正本へ集約し、回答の根拠から外します。この違いを台帳に残すと、更新時にどのデータを直すかも追えます。
「一覧どおりに文書を使い分け、検索した文章の出所を文書と版まで確認できますか」。この対応が分かると、規程を変えたときに更新すべきデータを探せます。
金額だけでなく、承認条件まで読めているか調べる
システム担当者に、規程のPDFから表や注記まで読み取れているか確認してもらいます。金額だけでなく、適用日と承認条件も残っていることが大切です。
長い文書は、検索用の小さなまとまり(チャンク)に分けます。システム担当者には、分けた後も金額・適用日・承認条件を一緒に見つけられるか確認してもらいます。
読み取れているのに見つからないときは、検索を調べる
社員は、規程と同じ言葉で質問するとは限りません。「ホテル代」と聞いても「宿泊費」の規程を探せるか、現場で使う質問をシステム担当者に渡して確かめます。
システム担当者が調べる、検索の流れ
- 検索前 権限・適用日で絞る その社員が読めて、宿泊日に適用される規程を検索します。
- 検索 言葉+意味で探す 「宿泊費」という語と、「ホテル代」のような言い換えの両方に対応します。同じ文書の同じ版・同じ箇所は、一つの候補にまとめます。
- 回答前 条件までAIへ渡す 関連する文章を選び、金額・適用日・承認条件を回答の材料にします。
組み合わせて使える検索方法
- 言葉が一致する文章を探す。「宿泊費」や文書番号を手がかりに、該当する文章を探します。
- 意味が近い文章を探す。「ホテル代はいくらまで?」という質問から、「宿泊費の上限」と書かれた文章も探します。
「10月2日に13,000円の宿を、承認前に予約してよい?」を「ホテル代の上限は?」だけに変えると、日付・金額・承認の話が抜けてしまいます。
承認条件がAIに届いているのに誤答した場合は、検索だけを直しても原因に合わない可能性があります。AIが受け取った文章全体や、回答の指示も調べます。
規程を変えたら、検索結果と回答も確かめる
規程を差し替えた後は、新しい条件で答えるかを試します。閲覧の許可を取り消したときや文書を削除したときも、使わせたくない内容が検索や回答に残らないか、システム担当者に確認を頼みます。
- 規程 規程を更新 新しい上限、いつの宿泊から使うか、承認が必要な場合を確認します。
- 検索 検索へ反映 検索用のデータも更新されたか調べます。言葉と意味の検索を併用する場合は、両方を確かめます。
- 回答 答えで確認 まず新しい会話で、宿泊日に合う規程を使って答えるか確かめます。以前の会話を再開できる構成なら、そこでの回答も試します。
RAGは、PDFから読み取った文章を検索用に保存します。過去の回答を一時保存して使う構成もあります。規程を変更したら、こうした保存先と回答への反映も確かめます。
検索画面から消えたことと、内部のデータが消えたことは別です。利用者の画面で分からない部分は、システム担当者やサービス提供元に調べてもらい、確かめられない部分は「未確認」として残します。
会話履歴を保存する構成では、変更前の情報が履歴に残ることがあります。記録としての保存と、次の回答への再利用を分けます。情報管理担当者と、読める人・保存期間・再利用の可否を決めます。
「文書が見つかった」と「正しく答えた」を分ける
業務側は規程で回答を、システム担当者は検索結果とAIへの入力を確認します。文書を見つけたことと、条件を守って答えたことは、別々に確かめます。
架空の回答例:10月2日に13,000円の宿を、承認前に予約してよい?
自社で用意する8つの質問例
| 試す場面・質問 | 期待する動き・残す記録 |
|---|---|
| Q1|現行の上限。10月2日の宿泊上限は? | 期待:現行版v2の12,000円です。記録:使った規程の版・宿泊日・上限の根拠を残します。 |
| Q2|上限超過の予約。10月2日に13,000円の宿を、承認前に予約してよい? | 期待:上限12,000円を超えるため、予約前の承認が必要です。記録:検索結果・AIへの入力・最終回答に承認条件があるかを残します。 |
| Q3|過去の日付。9月30日宿泊、10月2日精算の上限は? | 期待:精算日ではなく宿泊日で選び、旧版v1の10,000円です。記録:選んだ規程と回答を残します。 |
| Q4|規程にない質問。同行するペットの宿泊費は精算できる? | 期待:規程に記載がなければ、推測せず経理への確認を案内します。記録:原文での確認結果と回答を残します。 |
| Q5|権限外の質問。一般社員として、閲覧を制限した追加規程FIN-EXの条件を聞く。 | 期待:一般社員の検索結果やAIへの入力にFIN-EXを含めません。記録:対象文書の内容が入っていないかを確かめます。 |
| Q6|権限取消後。閲覧を許可されなくなった人が、以前の会話にあるFIN-EXを再表示できるか? | 期待:現在の権限と社内方針に従い、会話履歴の表示とAIへの再利用を分けます。記録:権限取消後の検索・AIへの入力・履歴表示・再利用を残します。許可しない内容は再利用しません。 |
| Q7|文書削除後。削除した試験文書が、検索や以前の会話から使われないか? | 期待:削除対象の検索用データを残さず、許可しない過去の内容を再利用しません。記録:削除記録と、以前の会話・一時保存からの再利用の有無を残します。 |
| Q8|正本の識別。正本と同じ金額のコピーがある。どちらを使う? | 期待:台帳の保管場所・管理担当・版を確認し、正本v2を選びます。記録:検索した文章の出所が正本かを確かめます。 |
検索結果だけを見ても、AIへ実際に渡った文章までは分かりません。両方の記録を比べれば、「探せなかった」のか「AIへ渡すときに落ちた」のかを分けられます。
原因の切り分けや確認項目を整理したい場合は、無料相談で、質問と根拠の規程をもとに相談できます。
「答えない方がよい質問」も確かめる
規程に書かれていない質問には、推測せず経理への確認を案内できるかを試します。ただし、検索で見つからないだけで「規程にない」とは判断できません。経理担当者が原文で確かめます。
閲覧を許可していない文書は、検索結果にも回答用AIへの入力にも含めないようにします。最後の回答に内容が出なかっただけでは、権限の制限が正しく働いたとは判断できません。
質問・正解・検索結果・AIへの入力・最終回答を、一組で残します。答えが違った場合は、どの条件に反したかも書きます。確認できない項目は「未確認」とし、機密を含む記録は読める人と保存期間を決めます。
修正後の答えを確かめ、利用を広げるか決める
試した結果をもとに、直す箇所と、まだ確認できていない箇所を分けます。誤答や権限の問題を残したまま対象を広げず、修正後に同じ質問で確かめてから利用範囲を判断します。
- 業務側 正解と誤答をそろえる たとえば「予約前の承認」が必要なのに「後で申請」と答えたら、その違いと根拠の規程を残します。
- システム担当者 調べた原因に沿って直す AIへ渡した文章全体と回答の指示を調べ、変更内容を記録します。原因を決め付けて、検索だけを直すことは避けます。
- 一緒に確認 同じ質問で比較し、別の場面も試す 元の誤答が直ったかを見ます。上限内の宿泊や過去の宿泊も質問し、別の誤りが増えていないか確かめます。
経理が確認した正解と、システム担当者が調べた検索・AIへの入力・権限の結果をもとに、情報管理担当者と利用を広げてよいか判断します。
部署や対象文書を広げるときは、その範囲で回答・権限・更新・削除・会話履歴を確かめます。質問集と確認記録を引き継げる形に残すと、次の更新でも同じ基準で比べられます。
まず、確認したい質問と正解の根拠となる規程をそろえてください。すでに試していればAIの回答も添え、誤答があればどの条件を間違えたかを示します。
よくある質問
RAGの回答が間違うたびに、AIモデルを変更すべきですか?Q1
モデルを変える前に、検索結果とAIへ実際に渡った文章を確かめます。文書が見つからない、条件を読み落とした、といった問題は、モデル変更だけでは直らない場合があります。必要な文章がAIに届いている場合は、入力全文や回答の指示・設定も調べます。
文書をたくさん入れるほど、正確に答えられますか?Q2
必要な規程が足りなければ追加します。ただし、古い版や同じ内容のコピーを増やすと、どれを使うべきか分かりにくくなります。まず確認したい質問を一つ選び、必要な文書が入っているか、正しく読めているかを確認します。
古い文書はすべて削除した方がよいですか?Q3
過去の宿泊などについて答えるには、当時の規程が必要な場合があります。過去の規程を検索対象にしていないなら、現在の規程で代わりに答えず、その日付の根拠を確認できないと伝えます。
試験質問の正解が分からない場合は、どうしますか?Q4
規程の管理担当者に確かめ、決まるまでは「正解確認待ち」にします。「いつ泊まるのか」を質問者に聞けば判断できる場合と、担当者にも規程の解釈が分からない場合は、分けて扱います。
AIへの入力を見られないサービスでも確認できますか?Q5
機密のない試験文書とテスト用アカウントで、変更前後の検索結果と回答を比べられます。内部で何がAIに渡ったかは、システム担当者や提供元にも確認します。見られない部分は、問題がなかったと決めず「未確認」にします。
出典と調査方法
確認日:2026年10月23日。文書の準備・分割・アクセス制御・更新と削除・検索と回答の評価について、以下の公式資料で確認した範囲を説明しています。経費規程・金額・質問・回答は確認手順を示す架空例で、製品の試験成績や精度改善の実測値ではありません。
- RAG準備段階:代表資料と評価質問のそろえ方 — 現場の質問と代表的な文書を選び、業務を知る人が正解を確認する進め方。表・画像・脚注の読み取りを確かめる際にも参照しています。
- RAG分割段階:文脈と文書構造を保つ考え方 — 文書を検索用に分ける際に、見出しや前後の意味を保つ考え方。必要な条件まで切り離さないための資料です。
- Azure AI Searchの文書単位のアクセス制御 — 利用者ごとに、検索してよい文書を制限する方法。権限の変更を検索用データに反映する必要性を参照しています。
- RAG評価:検索と最終回答で見る観点 — 検索で必要な文章が見つかったかと、最終回答が正しいかを分けて評価する考え方を参照しています。
- Azure Storageの変更・削除を検索索引へ反映する条件 — 元の文書の変更・削除を、検索用データに反映する条件。ファイルを消しただけで反映が完了したと判断しないための資料です。
- Azure AI Searchの索引更新と処理結果の確認 — 検索用データの更新方法と、その処理結果を確認するための資料です。
- Azure AI Searchの親文書・子文書の対応と更新・削除 — 元の文書と、そこから作った検索用の文章を対応付け、更新・削除するための資料です。
- Amazon Bedrockの文書解析:テキストと図表の扱い — 文字だけを読む方法と、表・画像も扱う方法の違いを確認するための資料です。
- Amazon Bedrock:回答を生成せず、検索した根拠を確認する — 回答を作らず、検索で見つかった文章と出所を確認する方法。検索結果と回答を分けて調べる際に参照しています。
- Amazon Bedrock:検索候補を質問との関連性で並べ直す — 見つかった文章を、質問との関連が深い順に並べ直す仕組みの説明です。
製品ごとの対応範囲と設定は、利用する構成の公式資料で確認してください。
PoCを「技術実験」で終わらせず、経営判断まで設計する。
対象業務の選定、現状値の計測、評価設計、ガバナンス、本番移行判定を一つの意思決定プロセスとして整理します。
