第50条の透明性義務は、人向け表示と機械可読マーク(機械が検出できる印)を求めます。期限の根拠は官報の規則2026/1744と欧州委員会FAQで、AI Act Service Deskの第50条本文は改正が未反映のため使っていません。自社がEU法の適用対象であるか、および本条項の日本法による扱いは範囲外で、法務が確定します。法的助言ではありません。
EU AI Actの透明性義務で企業がまず確認するのは、適用範囲・役割分担・ベンダー実装の三項目です。適用は出力がEUで使われるかで決まり、拠点がEUの外でも対象になるため、使い方ごとに対象外・追加確認・担当部署へ回すのどれかで判定します。
自社に関係があるかの入口から、確認先までを決めたい
EU AI Actの透明性義務が自社の使い方に関係するかを、公式範囲で切り分けたいときに読む。適用開始とマーク猶予、EUの外の提供者への適用の入口、公表する生成物ごとの判定、1社の公式実装例。
- EUに拠点が無くても対象になるのは、どんなAIを出す場合かを知りたい
- 8月2日から何が義務になり何が猶予なのか、違反したときの制裁金も押さえたい
- 対外に出す文章や画像が表示の対象に当たるか、線引きを知りたい
- ベンダーへ聞くことと自社が表示することを分け、法務へ渡す確認先を決めたい
2026年8月2日から何が適用されたか
人向け表示は2026年8月2日から適用です。対象は対話表示、ディープフェイク表示、公益事項の生成テキスト、感情認識と生体分類の告知です。これらに猶予はありません。機械可読マークだけ、それより前にEU市場へ出した生成システムに12月2日までの猶予があります。違反したときの制裁金は、最大1,500万ユーロ、または前会計年度の全世界売上高の3%です。
- 適用 8月2日から 対話表示(AIとやり取りしていると知らせる表示)、ディープフェイク表示、公益事項の生成テキスト、感情認識と生体分類の告知。これらの人向け表示に猶予はありません。
- 猶予 12月2日まで 8月2日より前にEU市場へ出した生成システムの機械可読マークだけ。8月2日以降に出したシステムのマークに猶予はありません。
- 任意 実務規範 実務規範への署名は任意です。署名は実装の完了ではなく、義務の示し方として規範に沿う意思表明です。
- 遡及しない 遡及表示 8月2日より前の生成物は、さかのぼって表示する必要はありません。ただし委員会は、可能な範囲での表示を推奨しています。
EUの官報に載ったDigital Omnibus(規則2026/1744)は、高リスクAIの規則の適用を2027年12月2日と2028年8月2日へ先送りしました。一方、第50条の適用日は動いていません。期限で動いたのは、8月2日より前にEU市場へ出したシステムの機械可読マークの適合期限だけです。第50条の本文で改められたのは実務規範の評価手続を定めた第7項で、義務の中身は変わっていません。執行は各国の市場監視当局が担い、AI Officeと欧州データ保護監察官は限られた範囲を受け持ちます。
適用はEUの中の企業だけで決まりません。委員会FAQによれば、EUの外にいる提供者にも、AIシステムの出力がEU域内で使われる場合は規則が適用されます。この記載は提供者についてのもので、業務で使うだけの導入者に同じ記載はありません。自社が当たるかは法務が確定します。
出典:欧州委員会の施行発表、第50条ガイドライン、官報、委員会FAQ。
提供者と導入者で義務はどう分かれるか
公式は提供者と導入者を分けます。提供者は市場へ出す側、導入者は業務で使う側です。対話表示と機械可読マークは提供者の義務です。ディープフェイク表示、公益事項の生成テキスト、感情認識と生体分類の告知は導入者の義務です。業務でAIを使うだけなら、見るのは主に導入者側です。
| 確認すること | 公式はどちらの義務か | 自社で確認する人(目安) |
|---|---|---|
| 対話表示 | 提供者(市場へ出す側)の義務。相手がAIだと明らかな場合は対象外 | ベンダーの表示実装を情シスが確認する。自社で開発した画面や独自UIなら提供者側も残る |
| 機械可読マーク | 提供者(市場へ出す側)の義務。標準的な編集の補助機能を果たす場合、または導入者が提供した入力データもしくはその意味を実質的に変更しない場合は対象外 | ベンダーへ公式記載を確認する。8月2日より前にEU市場へ出したシステムは12月2日まで猶予 |
| ディープフェイク表示 | 導入者(業務で使う側)の義務。実在するものに似て、本物と誤認させうる画像・音声・動画が対象 | 対外に出す生成画像・動画を広報が確認する |
| 公益事項の生成テキスト | 導入者(業務で使う側)の義務。人の確認や編集責任を経た文章は対象外 | 対外に出す生成文章を広報が確認する |
| 感情認識・生体分類の告知 | 導入者(業務で使う側)の義務 | 使う場合だけ、運用する部署が本人への告知を確認する |
3つの条件は、ディープフェイクと公益事項の生成テキストで中身が違います。ディープフェイクは、実在するものに似ていること、その対象が実在しうること、本物と誤認させうることの3つです。公益事項の生成テキストは、公表されていること、公衆へ情報を伝えるものであること、公共の関心事であることの3つです。公共の関心事には、政治・行政・司法・公共の安全・公衆衛生・環境・消費者安全・経済や科学の動向が入ります。
人が内容を確認した文章、または編集責任者が管理した文章は、中身を吟味した確認が入っているため、この表示の対象外です。誤字脱字や文法の修正のような形式だけの確認は、ここでいう確認に当たりません。自社が対外に出す文章が対象に当たるかは、公式一次資料に自社の文章が無いため断定しません。
顧客向けボットや社内チャットを自社で見るかは、公式義務の断定ではなく編集上の確認先です。
確認は、適用範囲・役割分担・ベンダー実装の三項目で進めます。役割分担はこの章の表で確かめます。ベンダー実装は次の章で、Anthropicの公式説明を実例に見ます。三項目をそろえた完成例は最後の章にあります。
出典:第50条本文、ガイドライン、実務規範、署名者発表、官報、委員会FAQ。
Anthropicは透かしをどう実装すると公式に言っているか
確認三項目の3つ目、ベンダー実装をAnthropicの実例で見る章です。Anthropicは2026年8月14日、将来のClaudeモデルが透かしを含むテキストを生成すると公表しました。同社はこれをEU AI Actへの対応と説明し、根拠に署名済みの実務規範を挙げています。8月2日より前に出たモデルにはEU法の移行期間があります。Anthropicを実例に選んだのは、8月14日に公式説明を出しているためです。製品の推奨ではありません。
透かしの有無は、読者には見分けられません。透かしには、個人・組織・会話を特定する情報が入りません。地域ごとに切り分ける方法が無いため、提供開始時は全世界に適用されます。
画像などのファイルには、C2PA(ファイルの来歴を記録する業界標準)の情報をメタデータとして付けます。ファイルの中身は変わらず、特定の個人や組織の情報も入りません。透かし検出APIは提供予定で、提供条件は公式資料に無いため、提供元へ確認します。
他社のモデルを使う場合も、確かめることは同じです。機械可読マークの公式記載があるかを、提供者の公式ページで見ます。確かめた結果は、最後の章の完成例でベンダー実装の欄に入ります。
出典:Anthropic公式の透かし説明。マーク猶予の期限は官報の第111条第4項。
日本企業は先に何を確認するか
独自見解先に確認するのは適用範囲、役割分担、ベンダー実装です。適用範囲は、出力がEUで使われるかから見ます。EUの外の提供者にも、出力がEUで使われる場合は規則が適用されるためです。チャットと対外に出す生成物は、使い方ごとに分けて判定します。判定は対象外、追加確認、担当部署へ回す、のどれか1つです。日本法の適合や自社へのEU法適用は、公式一次資料に自社名が無いため断定しません。
- 適用範囲:出力がEUで使われるか。使われるなら、対話表示・ディープフェイク表示・公益事項の生成テキストなど公式の対象に当たるか
- 役割分担:公式の義務者は提供者か導入者か。自社で開発した画面や独自UIなら提供者側も残る
- ベンダー実装:機械可読マークや対話表示の公式記載があるか。製品説明そのものは義務の記載ではない
- 対象外:公式が挙げる対象のどれにも当たらないため、確認はここで終わります
- 追加確認:対象に当たるかの材料が欠けているため、欠けている項目を提供元や法務へ聞いてから決めます
- 担当部署へ回す:三項目の材料はそろったため、確認日と出典URLを添えて法務・広報へ渡します
| 使い方 | 適用範囲(出力がEUで使われるか) | 公式の義務者と社内担当 | ベンダー実装 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 顧客向けチャットボット | EUの顧客が使うなら適用。AIだと明らかでなければ対話表示に当たる | 公式は提供者。社内は情シスが確認 | ベンダーに対話表示の公式記載あり | 担当部署へ回す。確認日と出典URLを法務・広報へ |
| 社内チャット(社内メモを直す) | 出力が社内にとどまるかで変わる。EUの拠点や取引先へ出すなら要確認 | 公式は提供者。社内は情シスが確認 | ベンダーの対話表示の記載は顧客向けと同じ | 追加確認。EUで使われるかを確かめてから決める |
| 対外に出す生成画像 | EUで公開するなら適用。ディープフェイクの3つの条件に当たるかで決まる | 公式は導入者。社内は広報が確認 | ベンダーへ機械可読マークの公式記載を確認 | 追加確認。判定は保留。ディープフェイクの3つの条件に当たるかを法務へ |
| 対外に出す生成文章 | EUで公開するなら適用。公表・公衆への情報提供・公共の関心事の3つの条件で決まる | 公式は導入者。社内は広報が確認 | ベンダーの透かし説明は義務の記載ではない | 人の確認や編集責任を経れば対象外。経ないなら表示が要る |
| 社内だけで終わる誤字直し | 公表しないため、適用の対象外です | 公式の義務者も、社内の確認先もありません | ベンダーへ聞く項目はありません | 対象外。判定は不要 |
チャット画面で文章を直す作業と、社内だけで終わる誤字直しは別の使い方です。同じ製品でも、出す先が社内か社外かで判定は変わります。
当社は、条文の要約より先に、確認先を分ける方が実務に使えると考えます。完成例の並べ方と社内担当の割り当ては当社の提案です。これは編集上の目安であり、自社基準に置き換えてよいものです。図注や表の下で述べる読み方も、同じく当社の見立てです。
まとめ|出典と使うときの注意
確認先を決める材料は、欧州委員会の公式ページ、官報、Anthropic公式説明でそろいます。自社がEU法の適用対象であるか、および第50条の日本法による扱いは、公式資料に自社名が無いため範囲外で、法務が確定します。未署名ベンダーの実装、透かし検出APIの提供条件、C2PAが機械可読マークの義務を満たすかも範囲外で、提供元へ確認します。高リスクAIの要件、検出の実測、製品の推奨は、確認先を決める範囲を超えるため扱いません。
規範への署名と、製品への実装は別です。時点も主体も違うため、公式ページの日付で確かめます。特定の製品やモデルは、比較できる公式の実装説明が足りないため推奨しません。
料金・速度・日本語品質・サポートの比較はしていません。比較できる公式の数値が無いためです。
出典と調査方法
- 欧州委員会:2 AugustからAI Actと透明性義務の施行を開始(2026年7月31日) — AI Officeと各国当局が透明性規則の施行を始めること、対話表示・ディープフェイク表示・機械可読マークを対象とすること。
- 第50条ガイドライン — 第50条が2026年8月2日から適用されること、提供者と導入者の役割、規範でマークとラベルの義務を示せることを整理。
- 実務規範(Code of Practice on Transparency of AI-generated Content) — 任意の実務規範であること、Section 1が提供者、Section 2が導入者であること。
- 規範署名者の発表(2026年7月31日、最終更新2026年8月18日) — 7月末時点で約190組織。Section 1にAnthropic、Google、Meta、Microsoft、Mistral、OpenAIの例。
- AI Act Service Desk 第50条 — 公式条文の表示。デジタル包括改正が本文へ未反映との注記あり。
- 官報:Digital Omnibus on AI(規則2026/1744) — 2026年7月24日掲載、7月27日発効。第111条第4項は、8月2日より前にEU市場へ出した生成システムの第50条第2項適合を12月2日までとする。
- 委員会FAQ:第50条の適用日と猶予 — 第50条第2項の猶予は12月2日。8月2日より前の生成物は遡って表示する必要はない。
- Anthropic:Claudeのテキスト透かし(2026年8月14日) — 将来モデルへの透かし(SynthID-Text方式)、ファイルへのC2PA来歴情報、検出APIは提供予定、8月2日より前に出たモデルはEU法の移行期間。
本記事は2026年8月18日時点で確認した公式一次資料に基づくニュース解説です。法的助言ではありません。
PoCを「技術実験」で終わらせず、経営判断まで設計する。
対象業務の選定、現状値の計測、評価設計、ガバナンス、本番移行判定を一つの意思決定プロセスとして整理します。
