AI News Analysis · Vol.08

EU AI Actの透明性義務で企業は何を確認するか|公式範囲と実装例

表示は8月2日、既存システムのマークは12月2日

updated 2026.08.25
read 3 min
ガバナンス 生成AI活用 規制動向
author
五月女 裕太 ビジョン・コンサルティング
AI Center of Excellence 所属
AI コンサルタント

生成AIコンペ2年連続最優秀賞(日経・日刊工業新聞ほか掲載)/AWS Summit 2025事例ブース登壇/AWS主催生成AIセミナー2025 2度登壇など、業界トップを走るAIエキスパート。

このAIコンサルタントに相談する
2026年8月18日の確認

第50条の透明性義務は、人向け表示と機械可読マーク(機械が検出できる印)を求めます。期限の根拠は官報の規則2026/1744と欧州委員会FAQで、AI Act Service Deskの第50条本文は改正が未反映のため使っていません。自社がEU法の適用対象であるか、および本条項の日本法による扱いは範囲外で、法務が確定します。法的助言ではありません。

委員会FAQ:第50条の適用日と猶予

官報:Digital Omnibus on AI

Anthropic:Claudeのテキスト透かし

answer

EU AI Actの透明性義務で企業がまず確認するのは、適用範囲・役割分担・ベンダー実装の三項目です。適用は出力がEUで使われるかで決まり、拠点がEUの外でも対象になるため、使い方ごとに対象外・追加確認・担当部署へ回すのどれかで判定します。

Read this if

自社に関係があるかの入口から、確認先までを決めたい

EU AI Actの透明性義務が自社の使い方に関係するかを、公式範囲で切り分けたいときに読む。適用開始とマーク猶予、EUの外の提供者への適用の入口、公表する生成物ごとの判定、1社の公式実装例。

  • 適用の入口
  • 役割分担
  • ベンダー確認
  1. EUに拠点が無くても対象になるのは、どんなAIを出す場合かを知りたい
  2. 8月2日から何が義務になり何が猶予なのか、違反したときの制裁金も押さえたい
  3. 対外に出す文章や画像が表示の対象に当たるか、線引きを知りたい
  4. ベンダーへ聞くことと自社が表示することを分け、法務へ渡す確認先を決めたい
01

2026年8月2日から何が適用されたか

人向け表示は2026年8月2日から適用です。対象は対話表示、ディープフェイク表示、公益事項の生成テキスト、感情認識と生体分類の告知です。これらに猶予はありません。機械可読マークだけ、それより前にEU市場へ出した生成システムに12月2日までの猶予があります。違反したときの制裁金は、最大1,500万ユーロ、または前会計年度の全世界売上高の3%です。

2026年8月2日適用・12月2日猶予・任意規範 図1|適用・猶予・任意・遡及しない
  1. 適用 8月2日から 対話表示(AIとやり取りしていると知らせる表示)、ディープフェイク表示、公益事項の生成テキスト、感情認識と生体分類の告知。これらの人向け表示に猶予はありません。
  2. 猶予 12月2日まで 8月2日より前にEU市場へ出した生成システムの機械可読マークだけ。8月2日以降に出したシステムのマークに猶予はありません。
  3. 任意 実務規範 実務規範への署名は任意です。署名は実装の完了ではなく、義務の示し方として規範に沿う意思表明です。
  4. 遡及しない 遡及表示 8月2日より前の生成物は、さかのぼって表示する必要はありません。ただし委員会は、可能な範囲での表示を推奨しています。
人向け表示に猶予はありません。猶予があるのは、8月2日より前にEU市場へ出したシステムの機械可読マークだけです。

EUの官報に載ったDigital Omnibus(規則2026/1744)は、高リスクAIの規則の適用を2027年12月2日と2028年8月2日へ先送りしました。一方、第50条の適用日は動いていません。期限で動いたのは、8月2日より前にEU市場へ出したシステムの機械可読マークの適合期限だけです。第50条の本文で改められたのは実務規範の評価手続を定めた第7項で、義務の中身は変わっていません。執行は各国の市場監視当局が担い、AI Officeと欧州データ保護監察官は限られた範囲を受け持ちます。

適用はEUの中の企業だけで決まりません。委員会FAQによれば、EUの外にいる提供者にも、AIシステムの出力がEU域内で使われる場合は規則が適用されます。この記載は提供者についてのもので、業務で使うだけの導入者に同じ記載はありません。自社が当たるかは法務が確定します。

出典:欧州委員会の施行発表、第50条ガイドライン、官報、委員会FAQ。

02

提供者と導入者で義務はどう分かれるか

公式は提供者と導入者を分けます。提供者は市場へ出す側、導入者は業務で使う側です。対話表示と機械可読マークは提供者の義務です。ディープフェイク表示、公益事項の生成テキスト、感情認識と生体分類の告知は導入者の義務です。業務でAIを使うだけなら、見るのは主に導入者側です。

提供者と導入者で分かれる確認先 図2|誰に何を確認するか
確認すること公式はどちらの義務か自社で確認する人(目安)
対話表示提供者(市場へ出す側)の義務。相手がAIだと明らかな場合は対象外ベンダーの表示実装を情シスが確認する。自社で開発した画面や独自UIなら提供者側も残る
機械可読マーク提供者(市場へ出す側)の義務。標準的な編集の補助機能を果たす場合、または導入者が提供した入力データもしくはその意味を実質的に変更しない場合は対象外ベンダーへ公式記載を確認する。8月2日より前にEU市場へ出したシステムは12月2日まで猶予
ディープフェイク表示導入者(業務で使う側)の義務。実在するものに似て、本物と誤認させうる画像・音声・動画が対象対外に出す生成画像・動画を広報が確認する
公益事項の生成テキスト導入者(業務で使う側)の義務。人の確認や編集責任を経た文章は対象外対外に出す生成文章を広報が確認する
感情認識・生体分類の告知導入者(業務で使う側)の義務使う場合だけ、運用する部署が本人への告知を確認する
対話表示と機械可読マークは提供者、残る3つは導入者の義務です。右の列は当社が置いた社内担当の目安で、公式が定めた分担ではありません。

3つの条件は、ディープフェイクと公益事項の生成テキストで中身が違います。ディープフェイクは、実在するものに似ていること、その対象が実在しうること、本物と誤認させうることの3つです。公益事項の生成テキストは、公表されていること、公衆へ情報を伝えるものであること、公共の関心事であることの3つです。公共の関心事には、政治・行政・司法・公共の安全・公衆衛生・環境・消費者安全・経済や科学の動向が入ります。

人が内容を確認した文章、または編集責任者が管理した文章は、中身を吟味した確認が入っているため、この表示の対象外です。誤字脱字や文法の修正のような形式だけの確認は、ここでいう確認に当たりません。自社が対外に出す文章が対象に当たるかは、公式一次資料に自社の文章が無いため断定しません。

顧客向けボットや社内チャットを自社で見るかは、公式義務の断定ではなく編集上の確認先です。

確認は、適用範囲・役割分担・ベンダー実装の三項目で進めます。役割分担はこの章の表で確かめます。ベンダー実装は次の章で、Anthropicの公式説明を実例に見ます。三項目をそろえた完成例は最後の章にあります。

出典:第50条本文、ガイドライン、実務規範、署名者発表、官報、委員会FAQ。

03

Anthropicは透かしをどう実装すると公式に言っているか

確認三項目の3つ目、ベンダー実装をAnthropicの実例で見る章です。Anthropicは2026年8月14日、将来のClaudeモデルが透かしを含むテキストを生成すると公表しました。同社はこれをEU AI Actへの対応と説明し、根拠に署名済みの実務規範を挙げています。8月2日より前に出たモデルにはEU法の移行期間があります。Anthropicを実例に選んだのは、8月14日に公式説明を出しているためです。製品の推奨ではありません。

透かしの有無は、読者には見分けられません。透かしには、個人・組織・会話を特定する情報が入りません。地域ごとに切り分ける方法が無いため、提供開始時は全世界に適用されます。

画像などのファイルには、C2PA(ファイルの来歴を記録する業界標準)の情報をメタデータとして付けます。ファイルの中身は変わらず、特定の個人や組織の情報も入りません。透かし検出APIは提供予定で、提供条件は公式資料に無いため、提供元へ確認します。

他社のモデルを使う場合も、確かめることは同じです。機械可読マークの公式記載があるかを、提供者の公式ページで見ます。確かめた結果は、最後の章の完成例でベンダー実装の欄に入ります。

出典:Anthropic公式の透かし説明。マーク猶予の期限は官報の第111条第4項。

04

日本企業は先に何を確認するか

独自見解

先に確認するのは適用範囲、役割分担、ベンダー実装です。適用範囲は、出力がEUで使われるかから見ます。EUの外の提供者にも、出力がEUで使われる場合は規則が適用されるためです。チャットと対外に出す生成物は、使い方ごとに分けて判定します。判定は対象外、追加確認、担当部署へ回す、のどれか1つです。日本法の適合や自社へのEU法適用は、公式一次資料に自社名が無いため断定しません。

  1. 適用範囲:出力がEUで使われるか。使われるなら、対話表示・ディープフェイク表示・公益事項の生成テキストなど公式の対象に当たるか
  2. 役割分担:公式の義務者は提供者か導入者か。自社で開発した画面や独自UIなら提供者側も残る
  3. ベンダー実装:機械可読マークや対話表示の公式記載があるか。製品説明そのものは義務の記載ではない
  • 対象外:公式が挙げる対象のどれにも当たらないため、確認はここで終わります
  • 追加確認:対象に当たるかの材料が欠けているため、欠けている項目を提供元や法務へ聞いてから決めます
  • 担当部署へ回す:三項目の材料はそろったため、確認日と出典URLを添えて法務・広報へ渡します
企業が先に確認する三項目の完成例 図3|実装範囲と聞くこと
使い方適用範囲(出力がEUで使われるか)公式の義務者と社内担当ベンダー実装判定
顧客向けチャットボットEUの顧客が使うなら適用。AIだと明らかでなければ対話表示に当たる公式は提供者。社内は情シスが確認ベンダーに対話表示の公式記載あり担当部署へ回す。確認日と出典URLを法務・広報へ
社内チャット(社内メモを直す)出力が社内にとどまるかで変わる。EUの拠点や取引先へ出すなら要確認公式は提供者。社内は情シスが確認ベンダーの対話表示の記載は顧客向けと同じ追加確認。EUで使われるかを確かめてから決める
対外に出す生成画像EUで公開するなら適用。ディープフェイクの3つの条件に当たるかで決まる公式は導入者。社内は広報が確認ベンダーへ機械可読マークの公式記載を確認追加確認。判定は保留。ディープフェイクの3つの条件に当たるかを法務へ
対外に出す生成文章EUで公開するなら適用。公表・公衆への情報提供・公共の関心事の3つの条件で決まる公式は導入者。社内は広報が確認ベンダーの透かし説明は義務の記載ではない人の確認や編集責任を経れば対象外。経ないなら表示が要る
社内だけで終わる誤字直し公表しないため、適用の対象外です公式の義務者も、社内の確認先もありませんベンダーへ聞く項目はありません対象外。判定は不要
公表する生成物は、人の確認や編集責任を経たかで判定が変わります。社内だけで終わる作業は、公表しないため対象外です。

チャット画面で文章を直す作業と、社内だけで終わる誤字直しは別の使い方です。同じ製品でも、出す先が社内か社外かで判定は変わります。

当社は、条文の要約より先に、確認先を分ける方が実務に使えると考えます。完成例の並べ方と社内担当の割り当ては当社の提案です。これは編集上の目安であり、自社基準に置き換えてよいものです。図注や表の下で述べる読み方も、同じく当社の見立てです。

05

まとめ|出典と使うときの注意

確認先を決める材料は、欧州委員会の公式ページ、官報、Anthropic公式説明でそろいます。自社がEU法の適用対象であるか、および第50条の日本法による扱いは、公式資料に自社名が無いため範囲外で、法務が確定します。未署名ベンダーの実装、透かし検出APIの提供条件、C2PAが機械可読マークの義務を満たすかも範囲外で、提供元へ確認します。高リスクAIの要件、検出の実測、製品の推奨は、確認先を決める範囲を超えるため扱いません。

規範への署名と、製品への実装は別です。時点も主体も違うため、公式ページの日付で確かめます。特定の製品やモデルは、比較できる公式の実装説明が足りないため推奨しません。

料金・速度・日本語品質・サポートの比較はしていません。比較できる公式の数値が無いためです。

06

出典と調査方法

  1. 欧州委員会:2 AugustからAI Actと透明性義務の施行を開始(2026年7月31日) — AI Officeと各国当局が透明性規則の施行を始めること、対話表示・ディープフェイク表示・機械可読マークを対象とすること。
  2. 第50条ガイドライン — 第50条が2026年8月2日から適用されること、提供者と導入者の役割、規範でマークとラベルの義務を示せることを整理。
  3. 実務規範(Code of Practice on Transparency of AI-generated Content) — 任意の実務規範であること、Section 1が提供者、Section 2が導入者であること。
  4. 規範署名者の発表(2026年7月31日、最終更新2026年8月18日) — 7月末時点で約190組織。Section 1にAnthropic、Google、Meta、Microsoft、Mistral、OpenAIの例。
  5. AI Act Service Desk 第50条 — 公式条文の表示。デジタル包括改正が本文へ未反映との注記あり。
  6. 官報:Digital Omnibus on AI(規則2026/1744) — 2026年7月24日掲載、7月27日発効。第111条第4項は、8月2日より前にEU市場へ出した生成システムの第50条第2項適合を12月2日までとする。
  7. 委員会FAQ:第50条の適用日と猶予 — 第50条第2項の猶予は12月2日。8月2日より前の生成物は遡って表示する必要はない。
  8. Anthropic:Claudeのテキスト透かし(2026年8月14日) — 将来モデルへの透かし(SynthID-Text方式)、ファイルへのC2PA来歴情報、検出APIは提供予定、8月2日より前に出たモデルはEU法の移行期間。

本記事は2026年8月18日時点で確認した公式一次資料に基づくニュース解説です。法的助言ではありません。

Vision Consulting

PoCを「技術実験」で終わらせず、経営判断まで設計する。

対象業務の選定、現状値の計測、評価設計、ガバナンス、本番移行判定を一つの意思決定プロセスとして整理します。

share
このAIコンサルタントに相談する